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2021.11.10(水)

何を買うかではなく誰から買うか/伝所鳩のお便り(40)

京都

我が家にはリビングと呼ばれるものがありません。ダイニングテーブルか、仕事場のイスくらいしか座れるところがなく、一日の生活の中でダラダラと過ごす時間というものが設けられないでいます。ちょっと横になりたいときは、床に転がってるときもあるくらいですが、さほど不自由は感じていませんでした。

そんな生活をしている中で、突然やってきたのはぎっくり腰。魔女の一撃とも呼ばれるぎっくり腰は、何の前触れもやってきてしばらく居座っていくので、寝ていても座っていても立っていても辛い。この状況になってみて初めて、我が家にはのんびり過ごす場所がないんだなということに気づき、ソファを買ってリビングを作る計画が持ち上がりました。

そうと決まれば、早速ネットでソファを探すのですが、何日も何日もいろんなサイトを見ても、欲しいものが見つかりません。安いものでも高いものでも、どれもなんだかしっくりと来ず、結局ソファが届くよりも先に腰の方が治ってしまい、やっぱり必要ないかなと買うのをやめてしまいました。

それから数日が経った頃、京都で家具職人をやっている友人が、たまたま10年以上前の学生時代に作ったソファの生地を張り替えたという内容をSNSにアップし、それが目に留まり一目ぼれ。デザインももちろんですが、10年前に作ったソファが未だに現役で使っているという話を見て、安いけど誰が作ったのかいつまで使えるのか分からないような、大手家具店のものを見たときのモヤモヤとした気持ちがパッと晴れたように感じました。

そこで早速、定休日を利用して京都の友人の自宅を訪ねました。

打ち合わせには、わんぱくな3人のお子さんたちが同席してくれ、結局そのソファの上で子どもたちとしこたま遊んで帰ってきただけになり、目的が果たせたような果たせてないような感じではありましたが、リビングでくつろぐってそういうことだなと思いながら、ある意味でソファをリアルに体感できるショールームだった気もします。

そして、帰りの道中にぼんやりと考えていると、こうして知り合いにお願いした仕事のお金は、あの子たちのために使われたりもするんだなと、当たり前のようなことを思いながらも、改めて自分たちの限られたお金を使う先は、顔の見えないお店ではなく、ちゃんと顔の見えるお店や人に使いたいなと思いました。

今はどこも物に溢れ、なんでも簡単に手に入るような時代です。洋服にしても食品にしても、選択肢は数えきれないほどあります。ネットを使えば、田舎に住んでいても家から一歩も外に出ることなく、肉でも魚でも簡単に手に入るので、どこで作られているのか、どこで採れるのかすら知らない人は多いように思います。

ソファも何の素材が使われているのか分からないとか、壊れたら直せなくて買い替えるしか選択肢のないものではなく、直して大切に使えるものがいい。きっと今回作ってもらうソファは、この打ち合わせに同席してくれた子どもたちが大人になっても現役で活躍してくれていることだと思います。

安いものには安いなりの理由がありますし、高いものにも高い理由があります。どちらがいいとか悪いではなく、何を選択するのか、自分でちゃんと選択することが重要だと思います。たくさんの広告に溢れ自分で選んでいるようで選んでいなかったりもします。誰が作ったのか分からない、何が入っているのか何が使われているのかも分からないというのは、やっぱりモヤモヤとしたものを感じますし、愛着も湧きにくい。だからこそ、ぼくらは誰が作っているのかを知りたいし、知っておきたい。そうすれば安心して食べることもできるし、大切に長く使うこともできます。

もちろんまだまだ知らないことばかりですし、こういうことを意識するようになったのは、最近のことです。追求しすぎると何も買えなくなってしまい、逆にストレスになってしまうこともありますが、少なくともぼくらはできる限り顔の見える方とコミュニケーションを取ってやっていきたいし、伝所鳩で販売する商品もぼくら自身がよく分からないものではなく、どこで誰が作っているのかをしっかりと説明ができるものをお客様へご案内していけたなと思います。

ということで、こうしてソファ作りがスタートしたのですが、いつできあがるかは不明。でも、手づくりってそういうものだと思います。注文して翌日届くのも便利でありがたい世の中ではありますが、気長に楽しみに待つのもまたおもしろさ。制作の途中工程も見に行けたらなと思っているので、次またぎっくり腰になるまでにできていればいいかなと思います。

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