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豊岡には古い建物がたくさん残っていますが、空き家になってしまったり、老朽化によって建て直しをしなければならないものも多くあります。建て直しをする場合、まずは既存の建物の解体作業になりますが、必要なもの以外はまとめて建物ごと潰してしまうケースがほとんどで、まだ使える家具や扉、床板や柱までまとめて廃棄されてしまいます。
汚れた古い家具や痛んでしまった建具、ギシギシと音のなる床板や歪んだ柱は、ほとんどの方にとって必要なものではないかもしれませんし、再利用するのは大変なことです。でも、捨ててしまうのは簡単ですが、必要としている方もいて、ぼくらも新しく買うのではなく使えるものはできるだけ残し、使い続けたいと思っています。伝所鳩の建物も、店内で使っている什器も建具も、そんな想いのもので溢れています。
先日、地元の金物屋さんを訪れた際に、こんな出来事がありました。
前から気になっていた金物屋さん。小さな頃からお店の前を何度も通ったことはあったけど、入ったことはなかったお店です。たまたまその日は通り過ぎた後に「行ってみよう」と思い立ち、車を慌ててUターンさせ、初めてお店の扉を開きました。
ガラガラっと建て付けの悪い引き戸を開け、初めて入った店内は、雨漏りをしてもおかしくないような屋根に、薄暗い店内だけど、まるでタイムスリップしたかのようなどこか懐かしい空間が広がっています。こんなお店がまだ残ってるんだ。
「こんにちは」と声をかけると、奥から一人の男性が出てきて、「ゆっくり見て行って。もうすぐ壊しちゃうから安くしますよ」と声をかけてくれました。
雰囲気のある建物なのに、なんで壊しちゃうんですか?と聞いてみると、娘さんが帰ってくるので一緒に住むために建て直すそう。お店は辞めちゃうんですか?とも聞いてみる。「いやーそれはまだ分かんない」と、あやふやな答えだったけど、向かいの建物を借り、少しずつそっちに商品を運んで、営業の準備をしているよう。いい歳に見えるけど、まだまだ商売は続けるみたいで、ちょっと一安心。
お店の中は、所狭しと商品が山積みにされていて、ぼくらのお店とは比べ物にならない物量で溢れている。決して見やすいわけではないけど、なんだか宝物を探すようでワクワクしてくる。昔の駄菓子屋さんのようで、商品を探す楽しさってこれだよなって感覚を改めて思い出させてくれるよう。
商品が並べられた什器は、ほとんどがボロボロだったり、ホコリが被っていて黒ずんでいるけど、今の今まで現役で活躍していたものばかり。これらはどうなるんですか?と聞いてみると、やっぱり解体と一緒に全部潰してしまうんだそう。もったいない。
洗って磨いて補修をすれば、どれも使えるものばかりだし、買おうと思ってももう買えるものじゃない。それならば、引き取らせてもらえないかとお願いをしてみると、「どうせ捨てるものだから、売るなんてできない」「でも、好きに使ってくれたらええよ」と、初めてその日会ったぼくらにそう答えてくれた。そして、いつ取りに来る?運ぶの手伝ってあげるよ。と。
日程を決めて、後日改めて引き取りに伺うと、棚から商品は既に撤去されていて、ぼくらが来るのもじっと待っていてくれたかのよう。物が無くなると一層ダメージが露わになって、直せるだろうかと少し心配になるほどだったけど、どうにか車に乗せて引き取らせてもらいました。
このお店に初めて来るのがあと少し遅かったら、全て捨てられていたかもしれない。そして、お店を片付ける前に、記録用に店内の写真も撮らせてもらったけど、この写真も訪れるタイミングが遅ければ撮ることはできなかった。なんだかちょっと運命を感じるこのお店の什器たちは、こうして伝所鳩にやってきました。
ただ、今はまだ活躍の場がないし、補修が必要なので、すぐに活躍はできないけど、いつか再び皆さんに見てもらえる日まで、大切にしまっておこうと思います。
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